元宅の子供は、みな幼弱であったためか、かれは、ただ、長曽我部元親父子に対して後事を託し、子供らの前途について、くりかえし、依頼している。即ち、次男の毘沙寿丸に、この遺書を与えて、土佐の長曽我部氏と連盟を結んでいる事の実を教え、毘沙寿丸と伊予にいる三児との間柄が、円滑にゆくように頼み、長男と次男の所領を明らかにし、刀剣、鎧、兜を次男に譲り、いとけない四男新発知丸を長男の千太郎が保護するように命じ、忠義孝梯の道わ忘れないことを、諄々と説いている。長男千太郎のことに言及しないのは、千太郎が長曽我部元親の人質となり、その将来を元親に託しているので、元宅も安心していたからであろう。なお、鍋千代丸というのは、元宅の三男のことである。幼児に与えた遺言書として、珍しい。 |